患者さんが医師の診療を受けるときは、法的には患者と医療機関との間に診療契約が成立します。医療機関は患者に対して適切な診療を行う債務を負い、患者は医療機関に対してこの診療行為の対価である診療費を支払う債務を負います。
そこで医療事故が生じた場合は、医療機関側がこの債務を履行しなかったことを理由として、債務不履行責任に基づく損害賠償を請求できることになります。
この場合の要件は
1. 損害の発生
2. 因果関係
3. 適切な診療をしなかったこと
の三つです。
このうち3.の「適切な診療」が争点となるケースが多いのですが、医療機関が負う債務の本旨は「必ず治す」ことではなく、当時の医療水準で可能な限りの「最善をつくす」ことであるので、一連の診療行為に「過失」がなかったかどうかが問題となります。
ここで、故意または過失がある場合には、不法行為に該当します。この「過失」とは具体的には「注意義務違反」を指すとされており、「注意義務」には事故発生を事前に想定して十分に予防・対処する「予見の義務」、事故が発生したとしても悪い事態を回避するための手段を講じる「結果回避の義務」があります。
尚、各損害賠償請求権は、事実関係の判明から、不法行為の場合は 3 年、債務不履行の場合は 10 年で時効により消滅となります。
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