どんな商売でも、成功するためにはお客のニーズを第一に考えなければいけない。これはビジネスの常識でしょう。お客が期待しているもの、ほしいと思っているものを売る。だから売れるわけです。
お客とお店の関係は常に、需要と供給の関係にあります。逆にいえば、いくら供給しようと思っても、需要がなければ売れないわけです。つまり、飲食店の商品とは、常に「お客のニーズは何か」を追求しなければならないわけです。
ところが、多くの飲食店では、この当たり前のことが意外と軽視されているのが現状です。どうしてそうなるのかというと、要するに、お店側の思い入れや思い込みがまず最初にあり、それが優先されてしまいがちだからです。
たとえば、多くの経営者にとって大事なのは「自分の売りたい商品」であり、料理人にとってのそれは「自分のつくりたい商品」です。メニュー構成はもちろん、サービス、雰囲気づくりまで、お店の全ての要素がそこからスタートしてしまっています。お客が本当に求めている商品は何か、どんなお店を欲しがっているのかという発想が欠けているわけです。
一般に、自分の売りたい商品にこだわりすぎるのは料理人出身の経営者といわれますが、実際はそうでもありません。調理師を雇ってお店をオープンするという場合でも、経営者があらかじめ売りたい商品を決めていて、その枠内から外に出ることができないケースが少ないのです。
もちろん、経営者には「こういうお店をつくりたい」という基本的な考えがあるはずですし、自分で考えたお店のコンセプトが何よりも大切なのは当然のことでしょう。問題は、そのコンセプトの中身です。お客のニーズを前提にしたコンセプトならいいのですが、往々にして自己満足的なお店づくりになってしまう。これではお客の支持をつかむことはできません。自分のつくりたい商品、つくりたいお店という発想は非常に重要なことです。しかし、それは常に、お客のニーズによって修正、改善され続けていかなければならないのです。
いかにしてお客に満足してもらうかという発想は、言い替えれば、お客のニーズをどれだけすくい上げることができるかということです。そこで大事になるのが、マーケティングの発想です。
マーケティングとは、簡単にいえば「お客の求めているものを探る」ことです。大手外食企業ではよく使われる言葉ですが、一般の個店では無縁のことととらえられがちです。しかし、そんなことはありません。お客のニーズを探ることの重要性に、ビジネスの規模の大小は何の関係もないのです。
というよりむしろ、小規模のお店のほうが、より現実的で効果的なマーケティングをしやすいのだということを、明確に認識すべきなのです。
いうまでもなく飲食店は、毎日の営業で常にお客と接しています。つまり、常にお客のニーズを探るための条件がそろっているわけです。お客は「お客が本当に求めているもの」を知るための最も正確な情報源です。しかも、飲食店は製造販売業です。お客から探った貴重な情報を、すぐにも自店の商品やサービスに生かすこともできるわけです。
そして、こういう情報を生かしやすいのは、小回りのきく小規模店です。大手外食企業では、会社の中での色々な意志決定を経なければなりませんし、多数の店舗に反映させるには更に時間がかかります。しかし、小規模の個店であれば、明日にでも改善できるのです。
マーケティングといっても、難しい入手法でなければならないということはありません。まずは自店のお客を注意深く観察する。同時に、繁盛している他店の動向にも注視する。その積み重ねが、成功を確実なものにするのです。 |