飲食店には必ず商圏というものがあります。商圏とは、お店に来店するお客の大半が住んでいる(サラリーマンの場合は勤めている、学生の場合は通学している)エリアのことです。言い替えれば、自店の影響力が及ぶ範囲、お店がお客を呼び込む範囲ということになります。
飲食店で成功するためには、この商圏の設定が非常に重要です。なぜなら商圏が明確に設定されていなければ、自店はどのエリアのお客を相手にするのかという営業方針を、明確に立てることができないからです。
どこのエリアの人であろうと、お客になってくれればそれでいいではないか。そう考える人もいるでしょう。お客が入ってくれるということは、人気がある証拠なのだから、と。たしかに、それも一理あります。
たとえば、ラーメン店でもそば店でもイタリアンのお店でも、いわゆる有名店の場合、商圏はあってないようなものです。なにしろ、電車に乗って 1 時間もかけて来店するわざわざ客がいくらでもいるのですから。場合によっては、飛行機で来たというお客もいるでしょう。しかし、そういうお店は飲食店の中のほんの一部、「例外」のお店にすぎません。また、数が少ないから目立つわけです。
もちろん、そういうお店になることを目標にするのは素晴らしいことです。しかし、マスコミで話題のお店も、最初から超有名店だったわけではありません。最初は、地元客相手に地道に営業していた。それが、何かのきっかけで広く知られるようになり、有名になったことで、遠方からわざわざ客が大勢押しかけるようになった。これが一般的なパターンです。
夢は大きく持ちたいものですが、お店の運営はバクチではありません。堅実、地道な努力がやがて、大きな成功へと発展していくものです。そして、堅実な運営とは、地元密着の営業に徹するということなのです。
飲食店の繁盛の鉄則は、ひとりでも多くの固定客をつくることです。固定客とは自店のファンであり、足繁く通ってお店を支え、もり立ててくれるお客のことです。ということは当然、自店に無理なく来店できる距離のエリアにいる人、ということになります。つまり、地元客です。
お店がお客の生活圏内(仕事圏内)にあれば、お客にとって利便性が高く利用しやすいわけですし、お店の存在も知られやすい。だから、一度利用してもらえれば来店頻度が高くなる可能性大のわけで、「地元のいいお店」と認めてくれたお客は固定客になってくれます。
フリ客でもお客はお客という考え方もできますが、フリ客とは「たまたま入ってくれた」お客です。同じ初めてのお客でも、地元の人なら固定客化を期待できますが、たまたま通りがかっただけのフリ客が再来店してくれる可能性に期待するだけでは、お店を維持していくことはできません。結局、安定した経営は望めないわけです。
地元密着の営業方針とは、地元のお客を大切にする営業方針ですから、繁華街などのフリ客相手のお店とは明らかに違う、フレンドリーでアットホームな雰囲気とサービスが不可欠です。そして、そういうお店の気持ちは、必ずお客に伝わるはずです。
お客にとって、地元のお店というのは、なんとなく安心感があるものです。個人的に親しいわけではなくても、自分の知っている場所で営業しているというだけで、初めてのお店に入るというという不安はかなり解消されます。だから、気に入ってもらえれば、口コミで評判が伝わりやすいのです。お客がお客を呼んでくれるのです。
ただし、口コミがきくということは、悪い評判もあっという間に伝わってしまうということで、この点には十分な注意が必要です。地元で愛されるためには、地元では絶対に敵をつくらないこと。ライバルの飲食店とも共存共栄の精神でつき合うことが大切です。 |