飲食業には「流行」が付き物です。ラーメンやそばが流行になれば、一気にラーメン店やそば店が増えます。最近はうどん店の流行が話題になりました。
流行になるということは、そういうお店を出せば、とりあえずお客が入るということです。お客のほうから来てくれるのですから、お店をやる側にとって、こんなに楽なことはありません。簡単に儲かるということで、雨後のタケノコのように次から次へと似たようなお店がオープンすることになります。
しかし、忘れていけないのは、流行には必ず終わりがあるということです。流行である以上、一時的にどんなに人気を集めたとしても、必ず廃れる運命にあります。お客の目はさっさと次の流行に向けられて、二度と振り向いてくれません。
流行にうまく乗って大繁盛したお店が、あっけなく消えて行く。そんな例は数え切れないほどです。しかも、ふつうの飲食店のように不振なりに持ちこたえるということがありません。パッと現れ、パッと消える。たいていがそういう末路になっています。
では、どうしてあっけなく消えてなくなってしまうのか。その理由は簡単です。流行のお店ではあったけれども、飲食店としての本当の魅力がなかったからです。
一般に、流行そのもののお店が繁盛できるのは、そのお店の実力のためではありません。流行のパワーのおかげで集客できていた、それだけのことにすぎないのです。だから、時間がたってお客に飽きられてしまったら、もうどうしようもない。流行とはしょせん、そんなものです。
しかし、ここでむずかしい問題が出てきます。それは、お客のニーズという問題です。流行になるということは、少なくともその間は、流行のお店のスタイルや商品に対するニーズがかなり発生していることになります。それを無視していいのかとなれば、無視できるはずもありません。お客が求めるものを的確に提供することは、飲食店の成功の大原則なのですから。
そこで大切になるのが、流行との距離の置き方です。流行現象のなかの、どの部分を生かすのが最も安全で最も効果的か、という視点を持つことです。
たとえば、流行のなかで最も真似しやすく、また真似したくなるのは店舗のデザインでしょう。繁盛している見本が目白押しであれば、真似もしたくなるでしょう。しかも、デザインの模倣は、内装業者の得意とするところです。
しかし、内装はかなりの投資を伴います。 1 年、 2 年で流行が終わったからといって、簡単に改装するわけにはいきません。ひと目で流行と分かるお店は、流行が終わるとそれだけで不利になってしまうのです。
だから、頭のいい経営者は、むやみに流行に飛びついたりしません。繁盛事例を冷静に観察、分析して大きな流れをつかみ、自店が取り入れられる要素は何か、どういう形で導入すれば最も効果的かと考えるわけです。
たとえば、内装は真似できなくても、料理やドリンクなら流行の要素を取り入れやすいし、大きな失敗につながるリスクは小さいものです。話題の料理、話題のドリンクを提供することで、流行ではなく自店の固定客をつくる足掛かりにすることができます。
流行を考えるときに最も大事なことは、流行の情報からいかに「時代」を読み取るかということです。言い替えれば、お客の関心がどういう方向を向いてくれるかということです。そこが見えてくれば、流行の現象を上手に加工して時代に合ったお店にブラッシュアップしていくことができます。
何も流行が悪いというのではありません。無防備に流行に乗ってしまうから、ライフサイクルの短いお店で終わってしまう。そこに気づかなければいけないということなのです。流行は真似するものではない、利用するためのものと、明確に認識することが大切です。 |