いま最も勢いがある飲食店は居酒屋です。
同時に、居酒屋は最も競争が熾烈な業態でもあるわけですが、競争が激しいというのは、それだけお客のニーズが豊富だということの証しでもあります。ニーズが豊富だから、次から次へと新しい業態が開発され、競争に加わってくるのです。今後も、居酒屋は最も有望な業種であり続けるはずです。
ところで、居酒屋はどんどん進化して今日に至っています。
かつては居酒屋といえば、たんにお酒を飲んで酔っ払う場所でした。それが、 80 年代後半からの居酒屋ブームでガラリと雰囲気が変わり、コミュニケーションと憩いの場として広く認知されるようになりました。若い女性だけでも気軽に入れるお店になったことは、居酒屋の発展の最大の要因でした。
そして、現在はファミリー客が楽しく食事のできるお店、つまりカジュアルレストラン的な利用の仕方が目立つようになっています。アルコールが主体ではなく、アルコールとともに食事を楽しめるお店という要素が重視されるようになっているわけです。
実は、この居酒屋のカジュアルレストラン化現象には、居酒屋だけにとどまらない、飲食店の成功の大事なポイントが潜んでいるのです。
外食はだれにとっても最も身近なレジャーですが、最もレジャー性が求められるのはいうまでもなく、ディナー帯の外食です。予算は利用動機によって変わりますが、いずれにしても、楽しさ、豊かさが感じられる外食でなければいけません。
レジャー性が強くなると、どうしてもお酒がほしくなります。もちろん、おいしい料理も必要ですが、やはり料理だけでは満足できないものです。これが居酒屋の人気の第一の要因なのですが、居酒屋にはもう一つ、お客のニーズをがっちりとつかんでいる要素があります。それは、グレージング・ニーズへの対応です。
グレージングというのは、あれもこれも少しずつ食べたいというニーズです。単に空腹を満たすだけのニーズなら、一人前の料理で十分でしょう。しかし、レジャーとして楽しむ食事では当然、いろいろな料理を味わいたいという欲求が強くなります。
色々な料理を少しずつ取り分けながら食べるというグレージングのスタイルは、アルコールとともに料理を楽しむのに最も適したスタイルですが、これは実は居酒屋のスタイルなのです。居酒屋の料理は本来、お酒のつまみですが、グレージングを楽しめる食事メニューでもあります。居酒屋がカジュアルレストランとして利用されているのは、まさにこのためなのです。
一方、いまディナー帯に繁盛しているお店のメニューを見てみると、業種業態にかかわらず、多かれ少なかれ居酒屋メニュー的な要素、つまりグレージングの楽しさを取り入れていることが分かります。
たとえば、相変わらず人気のイタリアンでは、従来のリストランテだけでなく、さまざまなスタイルのお店が生まれています。そういう新しいスタイルをつくりやすいのも、イタリア料理がもともと、取り分けて楽しめる要素を持っていたからです。
中国料理でも、小ポーションでグレージングしやすいメニュー構成のお店が人気となっていますし、和食のお店では逆に、大皿に2 , 3人前の料理を盛り込むことでグループ客などのグレージング・ニーズに対応するようになってきています。
このように、レジャー性を満足させるには、グレージングできるメニューづくりが非常に大事になるわけですが、もうひとつ注目してほしいのは、グレージングの楽しさを提供すると、アルコールの売上げ比率が高くなることです。メニューの居酒屋化は、売上高アップの最大の切り札というわけです。
居酒屋の魅力をいかに上手に取り込むか。これが成功の重要なポイントなのです。 |