飲食業に限らず商売はすべて、ビジネスの各要素を「お客の立場」から発想していく必要があります。なぜなら、商売の成功とは、お客の満足度の高さにほかならないからです。どこの世界でも、お客に満足してもらえないのに成功するビジネスなどあり得ない。そんなことは常識のはずです。
ところが、経営者はともすると、この絶対の原則を忘れてしまいがちです。飲食業の場合で考えてみましょう。本当にお客の立場からモノを考え、実践していると思えるお店がどれくらいあるのか。そういう観点から飲食店を観察してみると、当たり前のことを当たり前に実行しているお店が驚くほど少ない。それが現実です。そして、だから繁盛できないお店が多いのです。なぜ、お客の立場から発想できないのか。要するに、飲食業がサービス業、つまり奉仕業だということを忘れているからです。
一般に、奉仕業という意味として、接客サービスでのおもてなしや、清潔で居心地のいい店内の維持といったことが指摘されます。もちろんそれらは、飲食業での成功の絶対条件であり、その質を高めていくのは非常に大切なことです。
しかし、実はもっと大事なことがあります。それは、そもそもどんなお店をつくるかということなのです。飲食業では、業種業態という考え方が非常に重要です。いうまでもなく業種とは、主力商品のジャンルによる分類であり、これはだれにもすぐ分かります。一方、業態とは、何(商品)を、どんな利用動機に対して、いくらで売るかという考え方です。もちろん、ターゲットとする主要客層や売り方のスタイルもその要素のひとつですし、それらによって営業時間も決まってきます。つまり、成功する飲食店とは、たんに高級店とか大衆店というモノサシでは分類できないわけです。
ところで、いま挙げた業態の中に、売り方のスタイルというのがありました。一般に、飲食店経営者に欠落しているのは、この考え方なのです。売り方のスタイルとはお店側の発想ですが、これをお客の側から発想すれば、「楽しみ方のスタイル」ということになります。
ただし、ここでスタイルというのは、お店の内装デザインとか、商品の提供方法という意味ではありません。お店をお客にどのように使ってもらうかという方針です。内装や接客サービススタイルなどは、この方針のもとに決定されるべきことなのです。
飲食業ではよくコンセプトという言葉が使われます。しかし、多くの場合それは、内装などのお店のイメージを言葉にしているだけにすぎません。例えば、どこかの外国のリゾートの雰囲気とか、家庭的な雰囲気のお店といったイメージであり、どのようにお店を利用してもらうかという具体的なプランにはなっていない。つまり、お客の立場からの発想が決定的に欠落しているわけです。
お客不在の発想というと、そんなことはない、と言う経営者が少なくありません。しかし、実際にやっていることは、経営上の期待の一方的な押し付けであり、最悪の場合は、イメージだけでお客を満足させる中身のないお店になってしまうのです。
飲食業における奉仕業の意味は、まずお客が喜んでくれるお店を作ることです。成功するためにどんなお店をつくるかというのは、このテーマを徹底的に追求することです。そして、追求の結果として形になったもの、それがコンセプトなのです。ひとりよがりでどんな店舗や商品、システムをつくっても、お客が支持してくれなければ何の意味ない。それが飲食業です。ならば、このビジネスを構成するすべての要素を、お客の立場から発想していくのは、当たり前のことのはずです。
飲食業での成功がむずかしく見えるのは、実は、この基本中の基本を見失っているからなのです。 |