アメリカで BSE の問題が発生し、外食業界にとって尻すぼみの感がありました。ようやく牛肉の安全性への信頼が回復してきていただけに、とりわけ焼肉店など牛肉を主食材とする業種にとっては、最悪のニュースになってしまいました。今年もしばらくは、この問題が尾を引きそうです。
しかし、ことは牛肉だけの問題ではありません。牛肉がダメなら、他のメニューで代替すればいいということではないのです。いま問われているのは、食の安全性です。
最近は食品メーカーの偽装表示問題や違法添加物の問題が何かと話題になりますが、消費者が注目しているのは、そういうことばかりではありません。普段利用する飲食店のメニューにも、不安や疑問の目が向けられているのです。
ところが、飲食店側は意外と、この消費者の不安について鈍感なのが実情です。変なものを出しているわけないじゃないか――そういう気持ちを少しでも持っていないかどうか。一度、素直に反省してみる必要があります。牛肉だけが問題なのではなく、広く食の「安心・安全性」が問われ始めているのです。
消費者の健康に寄与するとは、昔からいわれている飲食店の義務ですが、今年はすべての飲食店が、このテーマをもっと真剣に、深く追求していかなければなりません。
たとえば、低価格。いうまでもなく、価格が安いことはお客にとってありがたいことです。しかし一方でこんなに安いのは、食材に問題があるからではないだろうかと、不安を抱かせているのも事実なのです。
また、これだけ価格破壊が進んでも、「安さ」だけにとらわれないお客が多数いるということもまた、事実。もちろん、高すぎては支持されませんが、多少高くてもリーズナブルな価値と認めればそちらを選択するお客はたくさんいるのです。
そこで非常に大事になってくるのが、「安心・安全」のアピールです。確かに、美味しさは飲食店の武器ですが、いまはそこそこ美味しいなどというのは当たり前の時代です。美味しいのは飲食店としての前提。しかも安心・安全な商品であることが強く求められるようになっているわけです。
いま世界規模で広がっているスローフード運動も、「安心・安全」で健康にいいという食の原点をみつめ直す動きで、本物の料理をゆったりと味わうといった雰囲気的な意味だけの流行ではないのです。
飲食店とお客をつなぎ止めるもの。それはお客の「信頼」です。あのお店だったら確実に満足できる――そう思うからこそお客は、途中に似たようなお店があったとしても、それらのお店を通り越してまで足を運んでくれます。つまり、固定客とは、自店を信頼してくれているお客のことなのです。
繁盛し、繁盛を継続していくためには、一人でも多くの固定客をつくらなければならない。そんなことは、飲食店経営者なら百も承知のはず。問題は、どうすればお客に信頼されるのかということですが、答えはすでに明らかでしょう。「安心・安全」のための努力をし、同時にそのことを強力にアピールしていくことです。
料理の主役は食材です。どんなに技術のある料理人でも、食材を超える料理はつくれません。安心・安全なお店を実現するにはまず、安心・安全な食材を探すことからスタートしなければならないのです。
もちろん、すべての飲食店がいわゆる健康食レストランにならなければならない、ということではありません。食材の仕入れルートの探索・確立には大変な努力と時間が必要です。一度にできなくてもいい。地道にこの努力を続けることで、時代に勝ち残るお店になろうということなのです。
飲食店を取り巻く状況は相変わらず厳しい。だからこそ今年は、「安心・安全」実現のためのスタートの年にすべきなのです。 |